ハヌマーンの手鏡・その2(KIN247)
入り口で靴を脱いで部屋に入ると、正面奥に背の高い男性(この人がビールのようだ)がいて、絨毯の敷かれた床に女性3,4名が座っていた。ウサさんが男性に近付いて何か交渉している様子だが、どうもビール(シャーマン)はダメだと言っているようだ。
やりとりがひと段落ついた所でウサさんが説明してくれたのは、以下のような事だった。
・外国人は観る事が出来ない
・映像を見る役は、相談者の周辺の人を知る若い女性でなければならない
・これから始まる相談は見学していても良い
リクエストした私達の事を気遣って、ウサさんは自分の年齢を半分くらいに偽ったりして色々試みて下さったのだが、ビールには厳格なルールがあるようで、一切受け付けてくれなかったらしい。幸いにして見学のOKは出たので、入り口付近からもう少し部屋の中に歩を進めた。
ビールは正面の椅子に座っていて、その左足付近(つまり私達から見ると向かって右)に相談者と思しき若い女性が座っている。向かって左側にも女性が3名。もしかしたら映像が見えるかもしれないと、私達は若い女性の後方(向かって右手の壁側)に座ろうとしたのだが、「そこには座らないように」とビールに制されてしまった。
結局、入り口近くの壁ぎわに置いてある木製ベンチ上に座って、正面から様子を見せてもらう事にした。目が慣れてくると薄暗い部屋の様子もよく見えて来たが、何か目立つ祭壇のようなものがある訳でもなく、至って普通のすっきりした部屋であった。ビールの足元には直径30センチくらいの灰が敷き詰められた器が置かれている。
準備の間に、悟郎さんが左手で待っている女性たちと言葉を交わし、ここに集っているのは全員親戚で、大金を盗まれて困っているので相談に来た事、そして、代表として右手の若い女性が見る役になっているという事がわかった。
ビールは相談者の若い女性の右手を少量の水で清めた後、足元の器に線香を立てて、そこに右手をかざすよう促した。煙で浄化しているような雰囲気だ。それから、おもむろに靴墨のようなものを取り出して、線香の煙にかざした掌にそれを塗った。その後、床に座っているその女性の右膝を立てさせ、膝の上に右肘を乗せ、黒く塗られた掌が自分の方を向くようにポーズを取らせた。
ビールは正面を向いたままで、女性はそれに直角な向きに座っているので、立てた右膝はビールの左膝の近くにあるような位置関係となる。従って、女性の掌は本人にだけ見えていて、ビールには見えない角度にある。その状態のまま、ビールは「掌を集中して見るように」と言う。
水と煙で清めた以外、特に儀式めいたことはしておらず、ビール自身がトランスに入ったりマントラを唱えたりする事もなかった。そもそもビールの服装自体、小ぎれいなビジネスマンみたいで、ちっともシャーマンらしくない。悟郎さん曰く、この国でシャーマンと呼ばれる人々は大抵おどろおどろしい雰囲気らしいのだが、「ここは違ってた」と後で意外そうに話していた。
「何か見えて来たか?」とビールが聞くも、女性は「何も見えない」と答える。すると「集中して」と繰り返す。同時に「見えていないのに見えたと言わないように」と注意している点が興味深い。そういうやりとりがしばらく続いた後、女性が「下の方が明るくなって来た」と口にした(つづく)。
*この文章は、『13の月の暦』でKIN178(9・鏡)の日(2017.11.17)に体験した出来事をまとめたものである。
(その1)はコチラ。