剣武天真流本部正師範による「五つの創作型」
写真:堀誠
8/7(KIN236)に行われた剣武天真流の演武会については、【剣武天真流「大剣祓い」とタケミカヅチ】や【剣武天真流と天真流二刀法】にも書いて来たが、この演武会では新たに「五つの型」が発表された。
剣武の稽古体系は、基盤体技(新体道に由来するもの)から組太刀、全ての型に到るまで、創始者である青木宏之宗家がお一人で構築されたもので、それ故に、広大な体系であるのにも関わらず、稽古人は自然と段階的かつ有機的に稽古を深めて行けるようになっている。
しかし、常に進化し続ける剣武を体現されている宗家は、2年ほど前、驚きの課題を私たち本部正師範に出された。何と「新しい型を創るように」と、それぞれに「型名」だけを示して開発を命じられたのだ。何とも大胆かつ斬新なやり方である。
お手本のある臨書と違って自由書の制作は想像以上に難しいものであることを書の稽古でも体験し続けて来たが、この「型の創作」は次元が違っていた。何しろ自分の創造性を具体的な形にするだけでなく、「剣武天真流の型」として相応しいものを作らなければならないのだ。
下手をすると、せっかくの稽古体系がぶち壊しになってしまうかもしれないのだから、「どうにかなるさ」タイプの私でもプレッシャーを感じずにはいられなかった。宗家は細かい条件は何も付けられなかったが、稽古体系と無関係であってはならないし、既にあるものの組み合わせだけでは「新しい型」とする意味は無い。
もちろん、与えられた「型名」には、それぞれの個性や特性を引き出すヒントが込められている訳だが、正解が分からない道を進むことの難しさを味わいながら(宗家はこれをもっと大きなスケールと領域で常に行って来た訳だが)、何とか演武会での発表にこぎつけたのである。
さて、前置きが長くなったが、以下、当日の演武順に、演武者自身が書いた「型」の説明文(当日配布されたプログラムに添付されたもの)と動画をセットにしてUPしてみたい。尚、演武時に舞台袖に掲げられている「型名」は、5人の中で唯一書もやっているという事で、私が書かせて頂いたものである。
【無限闘魂】(むげんとうこん) 丸山貴彦
「無限闘魂」には、宇宙大自然から授かった“いのち”を激しく燃やし、かけがえのない人生を思い切り突き進んでいこうとする力強い意志と覚悟が込められています。攻撃技を主体とするこの型を通して、見てくださる方々に元気と勇気を与え、そして燃え上がり躍動する永遠の“いのちの聖火”をつないでいきたいと思います。
【乗雲随流】 (じょううんずいりゅう) 関口仁
昔、大梅法常禅師(752~839)にある僧侶が「仏の教えで一番大切なことは何ですか」と問うと、禅師は「随流去(行)だ」と答えたそうです。大空に浮かぶ雲に乗った心境で、全天地の大いなる気の流れに随(したが)い、そして溶け合い、あるがままに生きてゆくという意味でしょう。「乗雲随流」を剣武の型として表現するにあたり、日常(=全宇宙)に遍満する真理から技を感じ取り形にしてゆこうと決めました。力みなど全くない青空を自由に進む雲をイメージして、「創作」ではなく「捜索」するつもりで身体から生まれ出る自然な動きを繋いでゆき完成しました。どうぞ一緒に雲に乗り天空の旅をお楽しみください。
【華厳讃歌】 (けごんさんか) 吉田倫子
「華厳」は「極楽で仏が立つ台座を沢山の花で美しく飾る」という意味で、華とは仏や神に感謝と 喜びを捧げることです。 誰もが唯一無二の命の花を咲かせるべく、この世に生を受けました。「華厳讃歌」は、善も悪も包容し、大自然大宇宙の全てと一つである私たち一人一人の命を、感謝 と共に大いなる源へ捧げる想いで編成しました。大地より生まれ、水のように柔らかに成長し、火のように心を燃やし歩み進め、風となり天地宇宙 と呼吸する。そんな尊い命の営みを全存在で歌い上げ、生命の喜びにあふれる型でありたいと願っています。
【天壌無窮】 (てんじょうむきゅう) 望月ウィウソン
「天壌無窮」は日本書紀に由来する言葉で、「天地とともに永遠に極まりなく続くさま」を表して います。 我々は既に大宇宙とひとつで、「今」という瞬間は永遠です。そのような時空を超越した想いを胸に、この型の創作に取り組みました。この永遠の空間の中で、我々は何をしても創造的に生きることが出来る可能性を持っています。なぜなら、創造性はまた神性であり、我々一人一人は限りなく続く「今」の創造主であるからです。この型が祈りとなり天地宇宙へ吹き抜けますように。
【裂風喚雨】 (れっぷうかんう) 小原大典
触れずに相手を倒す技「遠当て」で一世を風靡した当時、青木宗家は中国から来日する武術家や気 功師からたびたび表敬訪問を受け「あなたは呼風喚雨の男だ」と讃えられたと言います。天地自然全てを味方にする人物という意味合いですが、そこに聖書の一場面「イエスが息をひきとった瞬間、神殿の幕が上から下まで真っ二つに裂けた」(マタイ27: 50,51)(マルコ15: 37,38) というイメージが加わったのが裂風喚雨です。本当に風雨を呼べるような型を、と想像力を働かせつつ取り組みました。
最後に、現代日本屈指の刀匠(無鑑査)・松葉國正さんが出されたご新著『刀を究めればわかる武の練り方』から、剣武に関する感想を書かれた一文を引用させて頂こう。
正直申しますと青木先生の剣武天真流演武形を初めて見た時は、刀を使っているというより刀状の道具を使う新体道の演武に見えて、先生のやりたいことがサッパリ理解できなかったのです。ところが数年を経て、高弟の皆さんが青木先生の下育ってきて初めて、青木宏之が目指した剣の世界をまざまざとみることができるようになりました。あまりに高い山の頂ははっきり見えないものだな、と実感したものです。
『「天地人々ワレ一体」宇宙ととけあう究極の心法』でも触れている通り、松葉さんには鵜戸神宮での奉納演武や試し斬りのご指導などで大変お世話になっている。これも青木先生を通じたご縁あっての事なのは言うまでもない。(D)
月の月4日 8・鷲(KIN255)
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