6時に起きて、ダライ・ラマ法王のパレス(ナムギャル寺と隣接)を周回する巡礼路(リンコル)へと向かう。ちょうど人一人が歩ける位の細い道 が、ナムギャル寺を少し下ったところから始まっていて、パレスを右手にしながら30分位で1周できるらしい。回転の向きが決まっているので、人とすれ違う という事は無いが、既に沢山の巡礼者が、お経を唱えたりマニ車を回したりしながら、各々のペースでこの道を巡っている。少し広くなった場所には、大小様々 なマニ車が連なっていて、それらを一つ一つ回しながら歩みを進めていく。マニ車にはお経が書かれているので、それを回転させる事はお経を唱えるのに等し い、と考えられているのだ。だから、このリンコルをコルラする(聖なる場を右手にして巡回する事)と、それだけで自然にお経を唱えさせてもらった事にもな るのである。巡礼路というだけあって、中には何周もする人もいるが、私達は、ダライ・ラマ法王のお膝元をコルラ出来ただけで満足して、1周で終了。その 後、ナムギャル寺の中にある本堂とカーラチャクラ堂へ向かった。カーラチャクラ堂の壁面は、カーラチャクラの教えに関する様々な図象(諸仏、砂マンダラ、 暦等)で見事に埋め尽くされていて、ホログラム的にイメージが伝わってくるような印象を受けた。本堂では、千手観音(チベットの人々は、ダライ・ラマ法王 をこの仏様の化身と考えている)とパドマサンバヴァの像の前で手を合わせ、今回の旅の守護と導きに感謝した。
一度ホテルに戻り、すぐ近く の「シャンバラ・レストラン」で朝食。この辺りの建物はどれも、崖っぷちにへばりつくようにして建っているので、路面から入ったと思っても、そのまま奥の 窓際まで行くと、4、5階位の高さにいるような感じになっている事が多い。朝陽が注いで気持ちが良さそうなので、テラスの席に行ってみたら、やはりここも そういう構造で、谷に面した4階位の高さがあった。約束の時間に、広場でマリアさんと落ち合い(バイクで颯爽と登場)、完成しているはずのタンカを受け取 りに、ジャムガーさん宅へと向かう。先日、夜に部屋の灯りで見せてもらった時も見事だったが、日中の自然光の中で見る「レインボー・パドマサンバヴァ」 は、また格別に美しく、本当にいつまで眺めていても飽きない位だった。タンカ絵の構図は、それぞれちゃんと意味を持っているので、当然のように、パドマサ ンバヴァも湖から咲いた蓮華の上に座っているように描かれているのだが、それを見ながら私達がツォペマに行ってきた事を話すと、実はジャムガーさんファミ リーも、今年初めてツォペマに行ってきたという事が判明!
私達が日本でチョペ代表に聞いてきた通り、今年は12年に一回のパドマサンバヴァ・イヤーで、ロサ(チベット暦でのお正月)の後、ダライ・ラマ法王もカルマパも、ツォペマに行かれたのだという。当然、一緒に巡礼する人々も沢山い て、その頃のツォペマはものすごい人でゴッタ返していたそうだ。何しろ、あんまり人が多くて、湖の近くに宿を取ることも出来ず、テントに泊まって、毎日2 時間位かけてツォペマに巡礼していたらしい。だとすると、洞窟にあったあの大理石の玉座にも、法王はお座りになったはずだ。「1・魔法使い」の法王と 「2・魔法使い」のカルマパが訪れた年のツォペマで、「3・魔法使い」の日に「パドマサンバヴァの洞窟」にある玉座の前で瞑想し、その直後「パドマサンバ ヴァのエンパワー」を偶然授かる。全くもって出来すぎたお話のようだが、これが私達の体験しているリアリティなのだから仕方がない。多分、半年前に私達が タンカを依頼したのは、ジャムガーさんがツォペマに行った直後位だったはずだ。だから、彼にしてみれば、ツォペマから戻ったら「レインボー・パドマサンバ ヴァ」の依頼が来た、という感じだったかもしれない。私達としても、ツォペマ訪問後のジャムガーさんに、このタンカを描いてもらったかと思うと、なんだか 嬉しい気持ちになる。完璧なタイミングで素晴らしいタンカを仕上げて下さったジャムガーさんと、細やかな心配りでもてなして下さったソナムさんに感謝して、彼らの家を後にした。
日本におけるカーラチャクラTシャツ売上金からのカンパをマリアさんに託し(その時一番必要な所がどこかがよく 分かっておられるので、カンパ先はマリアさんの判断にお任せしている。今は難民レセプションセンターが良いだろうとの事)、マリアさんからは、KIKUの 皆へのお土産を託され、また近いうちに再会できる事を祈りながら、マリアさんともお別れした。ホテルでタクシーを頼み、午後1時頃マックロードガンジを出 発。ダラムサラの坂道をグングンと下り、一路パタンコートへ向かう。ずっと山道のドライブをしてきたせいか、10日程前にダラムサラに向かった時よりも、 道が広くて平らな印象を受ける。スムースなドライブで、思っていたより早くパタンコート駅に到着。後は列車を待つばかりだ。私達が乗る「特急ジャンムー メール」の到着時刻は、予定通りに到着するとしてもまだ3時間近くあるので、まずは一等車乗客専用の空調の入った待合室でしばらく休むことにした。列車が 到着する度、ポーターや売り子がホームで声をかけあい、急に活気を帯びるので、様子を観に出ると、そこに繰り広げられている光景は、なんだか古い映画で描 かれる駅のワンシーンのようだった。ただ、ここはやっぱりインドだなーと思ったのは、そういうイギリス映画のようなシーンが展開されているホームの隣の ホームでは、駅の水場を使って炊事をしてる家族がいたり、その残飯を牛があさっていたりするのを目の当たりにした時だった。インド時間ではほぼオンタイム と見なされる50分遅れで列車は到着。往路より1つ上のクラスだけあって、2人用のコンパートメントは、ホッとできる空間だった。列車の心地よい揺れに誘 われて、あっという間に深い眠りへ引き込まれていった。